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どこか満たされない心を「湯治」する──「セルフ・コンパッション」を読んで

自己肯定感がブームだ。自分に自信がないとか、自分が嫌いだとか、自分のことをダメだと思ったり、突き動かされるように何かを求めたり。そういう自分を肯定できない、否定的に見てしまう。いわゆる自己肯定感が低いという状態だ。

子育てでは子どもの自己肯定感を高めることが大事、なんて聞くものだから、少しでも褒めようと思うものの、子供のちょっとした言動に対して、ついイライラをそのままぶつけてしまって、親自身の自己肯定感が下がり、感情をぶつけられた子どもの自己肯定感まで下がってしまい、その結果また親をイラッとさせる言動をするという、悪循環の無限ループに陥ってしまうこともあるだろう。

自分で自分を認められない意識の奥には、なにか原因がある。それはたとえば、幼い頃に受けた心の傷だったり、社会的な価値観からの抑圧だったりする。そんな自分に厳しくあたるのではなく、優しく温かく接することで、事態は少しずつ改善していく。まるで温泉で心まで癒やされていくように。その有効な方法が、「セルフ・コンパッション」だ。

「セルフ・コンパッション[新訳版]」クリスティン・ネフ (著),、石村郁夫  (監訳)、樫村正美 、岸本早苗(著) 、金剛出版、2021年

「コンパッション」とは、思いやりや慈悲という意味だ。セルフ・コンパッションは、自分自身に思いやりやいたわりの気持ちを向けること。人によっては簡単ではない。僕自身も昔はそうだった。頑張ることが大事だと思っていたから、頑張っていないときは、なんか自分に罪悪感的なものを感じて、挽回しようとして無理したり、気分の浮き沈みも多かった。

セルフ・コンパッションのポイントは3つあるという。1つ目は、自分に優しくすること。2つ目は、誰しも経験することだと知ること。3つ目は、マインドフルネスだ。本書にあるエクササイズを自分でするのも良いが、専門的なプログラムがある。

マインドフルネスを学ぶ方法としては、本書でもマインドフルネス・ストレス低減法(MBSR)が代表として挙げられている。

ジョン・カバット・ジンのマインドフルネス・ストレス低減法(MBSR)のプログラムは、アメリカ国内の至るところで用いられている最も効果的なストレス低減プログラムである。MBSRのコースは、アメリカ国内外の何百という病院やクリニック、医療センターで提供されている。

一方で、マインドフルネス・ストレス低減法(MBSR)の受講者を対象とした研究でも、セルフ・コンパッション要素が増加したという調査結果が、米デューク大学などの論文で発表されている。

Robins, Clive J., et al. “Effects of mindfulness‐based stress reduction on emotional experience and expression: A randomized controlled trial.” Journal of clinical psychology 68.1 (2012): 117-131.

マインドフルネス・ストレス低減法(MBSR)を受講するだけでも、セルフ・コンパッションは培われるが、よりセルフ・コンパッションに特化した専門プログラムもある。それが「マインドフル・セルフコンパッション(MSC)」だ。

本書ではマインドフル・セルフコンパッション(MSC)のプログラムについて、マインドフルネス・ストレス低減法(MBSR)に似ているが「MBSRを補う有用なもの」としている。MBSRの補完として、MSCを受講するとベターだろう。

ちなみに本書は、セルフ・コンパッションの理論的な側面だけでなく、著者のクリスティン・ネフ自身の人生経験にかなりのページ数を割いていて、そこに引き込まれる。幼い頃の体験が異性との交際に深い影響を及ぼしていることを赤裸々に語っていたり、自閉症の息子が変容していく、少し不思議で感動的な旅に触れられていたりする。読み物としても面白かった。

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