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ロシアのウクライナ”侵攻”は米国がたどった道──書籍「戦争の文化(上)パールハーバー・ヒロシマ・9.11・イラク」を読んで

ロシアのウクライナ”侵攻”の報道が飛び交って、もう1週間以上経ち、報道に接しているだけで疲労感が蓄積されてきます。

なぜこんなことが起きているのか。

防ぐことはできなかったのか。

誰の言い分が正しいのか。

どの情報が事実なのか。

腑に落ちないことがたくさんあります。

また、被害にあっている方々のことを思うと、胸が痛みます。

さまざまな思いや感情が際限なく押し寄せてきますが、自分自身の心境にマインドフルに気づくことに努めています。

そして自分の思いや感情を脇において、現状をより深く理解するために、戦争の本質を追求する本を読みました。

いま起こっていることは、ロシアとウクライナに固有の事情があるにせよ、本質的には現代史で繰り返されてきたことなのかもしれない。

そう思いながら、真珠湾攻撃、原爆、9・11テロ、イラク”侵攻”の本質を比較した、最新刊「戦争の文化(上)パールハーバー・ヒロシマ・9.11・イラク」を読みました。

著者のジョン・W.ダワー氏は、日本近代史・日米関係史を専門とするMIT名誉教授です。

「戦争の文化(上)パールハーバー・ヒロシマ・9.11・イラク」

ジョン・W.ダワー 著 , 三浦 陽一 監訳 , 田代 泰子 訳 , 藤本 博 訳 , 三浦 俊章 訳、岩波書店、2021年

以下の岩波書店のサイトでは試し読みができます。

https://www.iwanami.co.jp/book/b595666.html

 

ロシアのウクライナ”侵攻”は、米国のイラク”侵攻”と多くの共通項があるように見えます。2003年、わずか19年前のことです。

 

  • 米国の「専制主義」

現在、プーチン政権は専制的、権威主義的だと欧米や日本から批判されていますが、本書によれば、イラク”侵攻”時のジョージ・W・ブッシュ大統領は、手続きを重視した大日本帝国より専制的でした。

周囲の意見に耳を傾けず、忖度が横行し、「帝王的」だったようです。本書では触れられていませんが、おそらくトランプ大統領も同様だと推測されます。

民主主義から「帝王」を生み出す国が、ロシアの大統領を専制的、権威主義的だと批判していると言えます。

政府の最高レベルにおける大日本帝国とアメリカ合衆国のもっとも顕著な違いは、自信の程度と意思決定の手順にあった。日本の意思決定のほうが、イラクとの戦争を急いだブッシュのケースよりも形式も手順も整っていた。ペンタゴンとホワイトハウスでは、問答無用といった形式無視の態度が横行し、大統領の「ボディランゲージ」を読みとることに、側近たちはかなりの時間を費やしたようである。(P138)

ジョージ・W・ブッシュの帝王的大統領制は、大日本帝国を戦争に引き込んだ軍国主義政権よりも絶対的で、不可侵で、不透明で、専断的だったのである。(P141)

 

  • 攻撃の大義名分

プーチン大統領は、NATO東方拡大で自国の安全保障が脅かされていると主張するとともに、ウクライナ東部の親ロシア派を保護するために”軍事作戦”を始めたとしています。

イラク”侵攻”時の米国も、真珠湾を攻撃した日本も、同じ論理でした。

米国はテロリストから自国の安全保障が脅かされていると主張するとともに、フセイン政権によって抑圧されたイラク国民を保護するとして”侵攻”しました。

日本もまた、ABCD包囲網から自国の安全保障が脅かされていると主張するとともに、欧米列強に抑圧されたアジア人を解放するために、米国と開戦しました。

さらに、プーチン大統領は、ウクライナ政権や東部の反ロシア派を「ナチス」になぞらえて攻撃しています。

同様に、ブッシュ大統領は、9・11のテロ攻撃を「ホロコースト」と称しました。

どちらも、ナチスの悪のイメージだけを利用して、レッテルを貼っています。

1941年の日本と2003年の米国は、自ら戦争に突入する理由づけとレトリックにおいて、よく似ていた。両者とも、自国の安全保障に深い不安を抱き、同時に海外で抑圧されている人々を「解放」して、永続的平和を建設すると称した。(P25)

9月11日から2カ月後、ブッシュ大統領は、第二次世界大戦のもうひとつの挑発的な比喩であるナチスのホロコーストに言及した。11月10日の国連総会演説で大統領は、テロリストが「大量破壊兵器を手にしようとしており、彼らの憎しみをホロコーストに変えようとしている」と語ったのである。(P11)

 

  • 相手への無理解

プーチン政権は、ウクライナ国民の心、なによりも誇りを理解せず、強引にロシアの影響下に置こうとしているようです。

米国は9・11を未然に防げる可能性があったにもかかわらず、テロ組織への過小評価や偏見によって、チャンスを見逃しました。

また、イラク”侵攻”時にも、イラクの政治や宗教をまったく理解していなかったため、イラクの占領政策は大きな混乱を長期にわたって引き起こしました。

9・11で露呈された想像力の欠如。それを診断する用語は、パールハーバーの驚きを描写するために長く使われてきた用語と本質的に同じである。システムの崩壊、リーダーたちの怠慢、「心理的無防備」、「偏見と先入観」、「相手の意思や能力についてのひどい過小評価」。こうしてみると、まるで病理学の症例の教科書を見ているようである。(P80)

2005年1月、ペンタゴンの国防科学委員会に提出された特別調査団の報告書の「補足文書」は、ブッシュ政権の戦争計画者の狭量と独善を、いっそう手厳しく批判している。「率直に言って、彼ら(ブッシュ政権)は敵の政治的・宗教的本質をまったく理解していなかった」。しかも彼らは、自分自身や自国さえも理解していない。(P102)

 

  • 嘘とごまかし

プーチン政権の話は真偽を慎重に見極めたいところですが、ウクライナのゼレンスキー政権やウクライナメディアや米国の発信する情報も鵜呑みにはできません。誇大表現が混ざっていることもあるでしょう。

米国がイラク”侵攻”時に国連で正当性を主張した29項目の理由は、実際には大量破壊兵器の有無をはじめ、ほぼすべてが虚偽あるいは立証不可能でした。嘘が当たり前になる文化があったようです。

嘘とごまかしは、戦争の文化、さらには政治一般の常套手段である。戦争になると、言葉の職人や映像の工芸家が次から次へと現れ、真実、真実の片割れ、想像上の真実、アイコン的イメージ、キャッチフレーズ、婉曲な言葉、誇大表現、言い逃れ、真っ赤な嘘を量産して生活費を稼ぐ。それは決まって、自国だけでなく外国の民衆に向けたものでもある。(中略)

ブッシュ政権の場合、大統領報道官であったスコット・マクラレンでさえ、後になって「嘘が常態になる文化」に巻き込まれたと告白している。とはいえ、マクラレンがそう告白したとき(2008年)には、政権の数々の嘘はすでに明らかになっており、細部まで証明されていた。情報問題の専門家トマス・パワーズによると、パウエル国務長官が2003年2月5日の国連演説で述べたイラク侵攻の公式論拠、すなわちイラクの「武器、計画、行動、事件、兵備」についての申立ては全部で29項目あったが、ひとつひとつ検討すると、侵攻後数カ月のうちに、ほぼすべて虚偽あるいは立証不可能であることが明らかになっていた。(P170〜172)

このように、ロシアのウクライナ”侵攻”にともなう出来事の一部は、約20年前の米国でも類似のことが起こっていました。

これからもまた、遠くない未来にどこかで起こるかもしれません。

私たちは同じようなことを繰り返しています。

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