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マインドフルネスによるストレス改善のエビデンス

ストレスの定義

ストレスについて考えるとき、まず「ストレスって何?」ということを理解することが大切です。ラザルス博士の定義によると、ストレスは周りの環境からのプレッシャーが自分の対応できる力を超えたと感じるときに起こります。簡単に言うと、自分にはこれ以上対処できないと感じるとき、ストレスを感じるわけです。
また、マギル大学のハンス・セリエ博士は、ストレスに関して違う定義を提案しました。彼は、ストレスは身体がいろいろな状況に反応する一般的な方法だと考えました。これは、ラザルス博士の定義とはちょっと違う考え方です。
この2つの考え方を合わせて考えると、ストレスは私たちの体や心が外からの圧力にどう反応するか、ということになります。
ジョン・カバットジン博士が、ストレスと上手に付き合う方法について教えてくれています。例えば、船乗りが風を利用して海を渡るように、私たちもストレスを上手に使えば、目的地にたどり着くことができると言います。風の向きが変わっても、船乗りは目的地に向かうために航路を変えます。つまり、ストレスを上手に使えば、私たちが目指す場所にたどり着く力になるかもしれません。
ただし、人によっては、過去のつらい経験(トラウマ)があると、ストレスに敏感になることがあります。ですので、ストレスを考えるときは、その人の過去の経験や感じ方にも気をつけて考えることが大切です。

体験のゾーン

マインドフルネスストレス低減法(MBSR)で紹介される、私たちが体験するさまざまな領域(ゾーン)があります。まず、「快適ゾーン」というのがあります。これは、ストレスが全くなくて、とても心地良い状態を指します。次に、「チャレンジゾーン」というのがあります。これは、「ユーストレス」とも呼ばれる領域で、ちょっとした挑戦や少しのストレスがありますが、それを通じて成長することができる場所です。最後に、「行き過ぎゾーン」があります。ここでは、ストレスやプレッシャーが強すぎて、私たちの能力を上回ってしまいます。
マインドフルネスのトレーニングでは、トラウマに気をつけながら、この「行き過ぎゾーン」に少しだけ触れてみます。でも、ほとんどの時間は、「チャレンジゾーン」か「快適ゾーン」に留まるようにしています。トレーニングを続けることで、自分自身やストレスに対する反応をより深く理解するようになります。これによって、感情をコントロールする力がつき、「チャレンジゾーン」が広がり、「行き過ぎゾーン」が狭くなるのです。このようなことを考えていきましょう。

ストレスの評価

アリッサ・エペル博士が書いた論文に、ストレスの評価方法について詳しく説明されています。エペル博士は「ストレスの処方箋」という本も出版していて、その本はとても評価されています。
More than a feeling: A unified view of stress measurement for population science – ScienceDirect
この論文では、ストレスをどう評価するかについていろいろな方法が紹介されています。例えば、ストレスがあるときに体が出すコルチゾールというホルモンを測る方法があります。他にも、ストレスがあるときに増えるノルエピネフリンやエピネフリン、αアミラーゼという物質を測る方法もあります。
また、自分がどれくらいストレスを感じているかを自己報告する方法もあります。これは、質問に答えて自分のストレスの程度を教える方法です。
ストレスに対する反応性も評価できます。トリア社会的ストレス・テストというテストがあり、これは被験者にスピーチや計算のタスクをしてもらって、ストレスを感じさせる方法です。
ストレス評価には、心拍数や血圧、皮膚の汗の量を測る方法もあります。これらは、ストレスがあるときに体がどう反応するかを見るための方法です。
また、ストレスが起きるタイミングも大切です。急にストレスが起きること、毎日の小さなストレス、人生の大きな出来事がストレスになること、ずっと続くストレスなど、いろいろな種類があります。
さらに、人生のどの段階でストレスがあったかも大切です。例えば、妊娠中のストレスが子供の将来の健康に影響することもあります。
最後に、その時々のストレスレベルを携帯電話で聞く方法もあります。過去1か月や1週間のストレスを振り返ってもらったり、リアルタイムで今感じているストレスを教えてもらう方法です。
エペル博士の論文は、これらのストレス評価方法や、ストレスについての基本的な説明をしています。マインドフルネスがストレスにどう影響するかを考えるとき、これらの評価方法が役立つのです。

MBSRと非アクティブ対照群とのストレス比較

マインドフルネスストレス低減法(MBSR)がどのくらい効果があるのかを見てみましょう。このプログラムは、その名のとおり、ストレスを減らすのによく使われています。
Mindfulness‐based stress reduction (MBSR) for improving health, quality of life and social functioning in adults: a systematic review and meta‐analysis – Vibe – 2017 – Campbell Systematic Reviews – Wiley Online Library

de Vibe博士たちが行った調査では、システマティックレビューの手法によって、色々な実験の結果をまとめて、このプログラムがどれくらい効果があるかを調べています。この調査では、色々な実験の結果を示す箱があり、それぞれの箱は、その実験での効果の大きさを表しています。また、線はその効果の確かさを示しています。これらの結果を全部まとめると、MBSRの効果は中程度と言えます。中程度の効果とは、0.5くらいの数値で、0.8は大きな効果、0.2は小さな効果を意味します。

MBSRを受けた人たちと、まだMBSRを受けていない人たち、または通常のケアや簡単な健康教育を受けた人たちを比較すると、MBSRを受けた人たちの方がストレスが減っていることがわかります。これは、マインドフルネスを使ったこのプログラムが、ストレスを減らすのに役立つということを示しています。

MBSRとアクティブ対照群とのストレス比較

マインドフルネスストレス低減法(MBSR)のストレスへの効果を、他の方法と比べた実験で見ると、その効果は0.18という数値になります。これは、0.2という小さな効果に近い数値です。実験の結果が統計的に意味があるかどうかを示す信頼区間というものを見ると、この結果は信頼できるとされています。これは、MBSRが他のアクティブな対照群、たとえば徐々に筋肉をリラックスさせる方法や、考え方や行動を変える認知行動療法、MBSRと同じくらいの時間を使う健康教育よりも、少し効果があることを示しています。つまり、MBSRがこれらの方法よりも効果が少し高いという結果です。したがってMBSRは全体的にストレスを減らすのに期待できると言えそうです。

MBSR・MBCTとストレス

サイモン・ゴールドバーグ博士とブラウン大学のスファン・サン博士を含む研究チームは、マインドフルネスに基づく介入法、特にMBSR(マインドフルネスストレス低減法)やMBCT(マインドフルネス認知療法)についてシステマティックレビューによって調査した結果を発表しました。
The Empirical Status of Mindfulness-Based Interventions: A Systematic Review of 44 Meta-Analyses of Randomized Controlled Trials – Simon B. Goldberg, Kevin M. Riordan, Shufang Sun, Richard J. Davidson, 2022 (sagepub.com)
彼らの調査では、これらのプログラムが非アクティブな対照群と比べて、介入後すぐに中程度の効果があり、その効果が長く続くことがわかりました。効果の大きさは約0.3で、少し小さめです。
他のアクティブな方法と比較した場合、介入後すぐにストレスが減少し、効果は小さいですが統計的に意味があるとされています。しかし、長期的には、他のアクティブな方法と比べてマインドフルネスに基づく介入が特に優れているのではなく、MBSRなどのマインドフルネスプログラムが他の方法と同じくらい効果的だということを意味しています。
この調査はストレスに特化したMBSRだけでなく、うつ病に焦点を当てたMBCTも含んでいます。MBSRの特長が他のマインドフルネスに基づく介入によって少し影響を受けた可能性もありますが、これを確認するためには、MBSRと他のプログラムを比較する実験が必要です。

ストレスの生物学的指標

マインドフルネス・トレーニングがストレスに与える生物学的な影響を調べた、職場での9つの研究をシステマティックレビューによってまとめた調査を見てみましょう。
Do workplace-based mindfulness meditation programs improve physiological indices of stress? A systematic review and meta-analysis – ScienceDirect
この調査では、マインドフルネスを行うことで、体の中のコルチゾールというストレスホルモンの量が減ったことがわかりました。普通、コルチゾールは朝起きた後に急に増えて、日中は多くなりますが、夜になると減ります。マインドフルネスを実践すると、この日中のコルチゾールの増減がより穏やかになるようです。でも、朝起きた時や日中の特定の時間には、その変化はあまり見られませんでした。
さらに、心拍変動も調べました。これは、心臓がどのように速く打つかを測るもので、ストレスが多いと心拍変動が少なくなります。この研究では、マインドフルネスを行うと心拍変動が改善することが示されています。これは、マインドフルネスが心のバランスを良くする効果があるかもしれないということです。
また、αアミラーゼという唾液の中の成分も調べて、マインドフルネスを行うとこの成分が減ることがわかりました。これらの結果は、マインドフルネスが生物学的にストレスを減らす効果があることを示していますが、まだ完全な結論には至っていません。

結論

結論として、マインドフルネスストレス低減法(MBSR)は、ストレスへの対処方法として、他の何もしないグループと比べると、中くらいの効果があるとされています。他のアクティブな対策をしているグループと比べると、効果は小さいですが、統計的に意味のある差があります。
マインドフルネスストレス低減法(MBSR)やマインドフルネス認知療法(MBCT)、その他のマインドフルネスプログラムを含めると、何もしないグループと比べて、効果は小さめから中くらいです。プログラム直後の効果は、アクティブなグループと比べて小さく、長期にわたって追跡調査をした結果でも他のグループよりも効果が高いとは言えません。MBSRのストレスへの効果が、他のマインドフルネスベースの介入(MBI)よりも高いかもしれませんが、MBSRとMBCTや他のマインドフルネスプログラムを比べた研究で、ストレス減少に特に効果があるかどうかはさらに調査する必要があります。
また、ストレスの生物学的な指標に対するマインドフルネスベースのプログラム(MBP)の効果についての研究はまだ少ないですが、結果はかなり期待できるものとなっています。これが、マインドフルネスがストレスに与える影響に関する科学的な見解です。


本記事はブラウン大学マインドフルネスセンター所長Eric Loucks博士およびJMC主催”マインドフルネスに基づくプログラムの科学”を参考に執筆したものです。

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