これはどういう研究なのかと言いますと、背景から説明しますね。
人間って今起こっていないことに思いをめぐらせることができる唯一の動物ですよね、おそらく。
例えば、ご飯を食べていても仕事のことを考えたりとか、去年の嫌だったことを思い出したりとかですね。
将来への不安、将来の不安、過去への後悔とか、いろいろと頭の中を巡ってくるわけですよね。
こういう状態を「マインド・ワンダリング」、ワンダリングというのはさまようことなんですけれども、心がさまよっている状態というふうな意味で、マインド・ワンダリングと言います。
いま起こっていないことに思いを巡らせることができるっていうのは、人間が進化で獲得した稀有な能力なわけなんですけれども、これには実は感情的な代償を払っているんじゃないかというのが、問題提起なわけなんですよね。
どういうことかというと、多くの哲学や宗教的な伝統においては、幸せはもう今この瞬間に存在しているという趣旨のことが、いろんな文脈で言われています。
今に集中しようということを、例えば瞑想などを通じて、多くの宗教的な伝統において推奨されているというわけなんですよね。
マインド・ワンダリングを抑制して、今この瞬間に集中するということが勧められているわけなんですけれども、実際にワンダリング・マインド、さまよう心はアンハッピーマインドなのかと、不幸せな心なんだろうか、ということで、これを実際に調べてみたのがこの論文になります。
心があちこちさまよっていると、実際に不幸せに感じているんだろうかという疑問が、この論文の出発点になります。
この研究のすごいところは、iPhone のアプリというものを利用して、今までではできなかったような多くの人数が、ランダムな時間に何をしていたかというのを、その瞬間に聞くことができるという、この方法なんですよね。
もしiPhone などがない時代であれば、調査員をこそこそ参加者について行かせて、今何をしているなというのを記録したりとか、いきなりその人に話しかけて、今幸せですかなんて聞かないといけない、みたいな話になっちゃうと思うんですけれども。
そんな手間はかけられないし、費用もかかりますのが、iPhone であればですねそれがすぐ
できるということで、文明の利器を利用した研究になります。
それでは、この質問をすると言いましたけれども、具体的にその質問の内容を見てみましょうかね。
この実験をするとどうなったかっていう結果ですけれども、実は全サンプルを取ったもの、記録した結果のうちの46.9%でマインド・ワンダリングが起こっていたということなんですね。
人間は起きている間、いろんな活動してるんですけども、実にその46.9%ぐらいで、別のことを考えていたというわけなんです。もう半分近い状態ですね。
さらに、どの活動でも30%以上はマインド・ワンダリングが起きていたということで、例えば料理とか勉強とか、いろいろあると思うんですけれども、どの活動をとっても、最低30%はマインド・ワンダリングが起きているということなんですよね。
ただしメイキング・ラブ以外、性行為以外ということで、性行為の時は皆さん集中しているということになります。これ、メイキング・ラブの間に通知が鳴って、ちゃんと答えてくれるのもすごいなと思うんですけど(笑)
というわけで、マインド・ワンダリングは我々が予想しているより頻繁に起こっているということですね。
そして左下の表を取り上げて大きくして見てみたのがこちらなんですけれども、どうなっているかというと、マインド・ワンダリングをしてないとき、今に集中しているときの方が、この3つのマインド・ワンダリングをしているときに比べて、幸福度が高かったっていう結果なんですよね。
この上の3つは、喜ばしくないこと、不快なこと、そして普通のこと、そして好ましいことっていうことについて考えてたときのマインド・ワンダリングなんですけれども、そのどれよりも、マインド・ワンダリングしてないときの方が、幸福度が高いということなんですね。
ただし、今この好ましいことにマインドワンダリングしているときとは、そんなに差がないということで、有意な差はなかったということなんですけども、少なくともマインド・ワンダリングしてない時の方が幸福度は低くない、ということなんですよね。何を考えているにしてもですね。
というわけで、マインド・ワンダリングしている時は、していない時よりも幸福度が低い
、さらに何をしている時であっても、その結果が出ていたということなんですね。
それが結果②になります。
どういうことかと言いますと、これは幸福度が同じ人、ある一人の人(Aさん)を選んで、ある時は幸福度が高かったけど、あるときは幸福度が低かったとしますよね。
そうすると、何でその差が出たのかっていうのを説明しようとしたときに、何をしているかというその活動によって説明ができたのが4.6%であったのに対して、マインド・ワンダリングをしていたかどうかによって説明ができたというのが、10.8%にのぼったということなんですよね。
なので、マインド・ワンダリングの方が、幸福度の差についてより説明をしてくれる、ということなんですよね。
次は、例えばAさんとBさんを比べて、AさんよりもBさんの方が幸福度がおしなべて高いとしますよね。
それを説明するのに、活動により説明できたのが3.2%に対して、マインド・ワンダリングをしているかどうかで説明できたのが17.7%であった、ということで、マインド・ワンダリングのほうがやっぱり説明をしてくれるということなんですよね。
つまり、幸福度の予測には、何をしているかよりも、何を考えているかを使う、つまりマインド・ワンダリングしているかどうかを使うほうが、優れた予測ができますよというのが、結果③になります。面白いですね。