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0-3. MBSRに関する研究成果紹介(第2版のイントロダクション) 〜 書籍「マインドフルネスストレス低減法 (Full Catastrophe Living)」

今日は本当に久しぶりになってしまったんですけれども、こちらの「フル・カタストロフィー・リビング」っていう、この本の続きを読んでいきたいと思います。

これがこの本の全体像なんですけれども、今やっているのは本当にこの最初の最初の導入部というところになりまして、さらに導入部の中で3つに分かれておりまして。

その真ん中の「第2版のイントロダクション」というところを読んでるんですけれども。

さらにその第2版のイントロダクションがこういう感じになってまして。

 

以前はこの上の部分を紹介したんですけれども、今回は研究成果紹介というところで、8つの科学論文のご紹介をしていきたいと思っています。

 

この8つの論文に関しましては、末尾にそのタイトルを貼っていますので、ご興味のある方は参考にされてみてください。

今回はできる限り一般の方にもわかりやすいように、可能な限り噛み砕いてご紹介できればと思います。

まず1番目の論文は、実はもう紹介したことがある論文で、「さまよう心は不幸せな心」というタイトルの論文になります。

これに関しては、末尾に以前の動画のリンクを貼っておきますので、ご興味ある方は見てみてください。

iPhoneを使って、簡単に言うと、マインドレスだと幸福度が低い、ということを示したという面白い研究になりますので、ぜひチェックしてみてください。

 

ちなみにこの①っていうのは僕がつけた番号なんですけども、カッコ内は本の中で割り振られている記号になります。

もし本を持っている方は、この記号で参照していただければと思います。

では次にいきたいと思います。

②はヘルツェルさんという方たちが書かれた論文なんですけれども、これは神経可塑性という言葉がキーワードになっているんですよね。

 

神経可塑性というのは、最近トピックになっている話で、以前は神経っていうのは成人になるとほとんど変化しないという風に考えられていたんですけど、実はそうじゃないぞというのが最近の研究でわかってきていて。

脳の構造は私たちが以前思っていたよりも、ダイナミックに変化し続けているんじゃないかということが言われているんですよね。

 

それとMBSRを関連付けたのが、こちらの論文になるわけなんです。

どんな結果だったかというと、MBSRを行った方に脳の画像検査をしてもらうんですよね。

そうすると複数の部位で、灰白質っていうところの厚みが増えていました、という結果が出ているんですよ。

 

じゃあ灰白質というのは何なのか、ということなんですけれども、耳慣れない方も多いと思いますので、簡単に説明しますと、こちらはウィキペディアからひいてきた画像で、脳をスパッと切るとこんな断面になるわけなんです。

 

これは半分ですね、僕でいうと左半分になるんですけれども、こういうふうに脳というのは表面と、あとは深部と、大きく分けて2つに構造が分かれているんですけれども、この表面の部分を灰白質というわけなんですね。

 

大脳においては大脳皮質と呼ばれることもあるんですけれども、その灰白質っていう部分の厚みがMBSRを行うと増えていたということですね。

 

灰白質の厚みが増えていたということは、おそらくその部分が担っている役割が強化されているということが示唆されるわけなんですけれども。

 

ではどんな役割が強化されたんだろうか、どんな役割を担っている場所だったんだろうかっていうと、それが、

・学習

・記憶

・感情調節

・自意識

・視点の取得

に関わる領域だったそうです。

 

視点の取得っていうのは、あまり聞かない言葉かもしれないんですけども、いろんな立場に立って考えることができる力って、簡単に考えたらいいと思います。

 

こんな感じで、実はMBSRを行うと、脳の構造にも変化が現れていて、その構造はその場所が担っている役割、担っている働きも強化されていることが示唆される、というこちらの面白い論文、「神経可塑性」というキーワードに沿った論文になります。

というわけで、次にどんどんいきたいと思います。

③も実はヘルツェルさんらの論文なんですけれども、これはMBSRを行って、こちらも画像検査をしたんですよね。

そうすると、扁桃体と言われる部分の厚みが、今度は減少したということなんです。

扁桃体というのは、もしかしたらみなさん聞いたことあるかもしれないですけれども、外部からの脅威が来た時に、それを評価して反応するという役割を担っている場所なんですよね。

 

というわけで、厚みが減少したということで、自動的に反応してしまうというのが減るんじゃないかということが、なんとなく感じられるところですよね。

 

さらに面白いのが、厚みの減少っていうのが、実は「知覚されたストレス尺度」っていう、自覚的なストレスを評価する検査に相関があった、関係があったというんですね。 

自覚的なストレスが低い人ほど、厚みがたくさん減少していたということがわかっている、ということで、ストレスの自覚と脳の構造の変化が関連していることを示している、というところで、すごく面白いですよね!

それでは、次の論文なんですけれども、これはファーブらの論文なんですけど、MBSRを行って、神経細胞の活動を見ている論文になるんですね。

脳の神経細胞なんですけども、それをどうやって測るのかというと、fMRIという、道具立てが最近出てきまして、研究ですごく使われているものになるんですけれども。

これはファンクショナルMRIっていうものの略で、MRIっていうのは、みなさん聞かれたことあると思いますし、病院にもよくあるやつなんですけれども、このファンクショナル(f)が付くと、リアルタイムにその脳の機能の活動まで見れるんですよね。

MRIというのはただー構造を見るだけなんですけども、「f」がつくと、機能をリアルタイムで見ることができる、簡単にそういうものだと思っていただければと思います。

 

それによって活動を評価することができる、というわけなんですけれども、面白いのはこの機能を見られるMRIを使ったところ、「最小自己」に関わる領域っていうのが、活動がアップしていて、「物語自己」に関わる領域っていうのは、活動がダウンしていく、活動が下がっていたということなんですよ。

 

じゃあこの最小自己、物語自己っていうのは、いきなり出てきた言葉でわけわかんないと思うんですけど、最小自己っていうのは、簡単に言うと、今この瞬間の自分だけの状態。

物語自己っていうのは、人生のストーリーの中での自分っていうもの。

2つとも自分の認識の仕方、と簡単に言っていいかなと思うんですけど。

 

物語自己っていうのは、実はその後悔とか不安とかの温床になってしまうんですよね。

あの時ああいうふうにしていれば、自分が今ごろこうなのにとか、これからどういうふうに自分はなっていくんだろうか、不安だなぁ、みたいな感じで。

自分を物語の中で捉えることによって、幸福度が下がっていくということは、往々にしてあるわけなんですよね。

 

そうじゃなくて、今この瞬間にとどまりましょうよっていうのが、マインドフルネスでよくある言い回しじゃないですか。

それは言い換えると、最小自己を目指していきましょうよ、とも言えると思うんですよ。

というわけで、マインドフルネスの文脈でもよく言われるようなことが、こういう感じで画像検査を用いて客観的に示された、という意味で、すごく面白いなと思います。

 

この2つの「自己参照」って書いてますけども、最小自己っていう自分の捉え方のあり方と、物語自己という自分の捉え方が、結びつきが弱まったって言うんですよね。

 

今まで、例えば今この瞬間にとどまろうとしても、過去や未来の自分のことが、一緒に付随して出てきたりってあるじゃないですか。

そういうのが一緒に出てきづらくなるっていうのも、この論文の中で示唆されているみたいです。

それでは5番目の論文、ローゼンクランツらの論文をご紹介したいと思います。

この論文は、心理的ストレスと、炎症の関係にマインドフルネスがどのように変化を及ぼすか、ということを調べた論文になるんですね。

 

炎症っていうのをどういうふうに測ったのかといいますと、参加してくださった方の腕の所に、こう陰圧をかけて吸引すると、そこで炎症が起こって水疱(水ぶくれ)ができるそうなんですね。

それと心理的ストレスとの関係を調べているということなんですよね。

 

マインドフルネスの介入としてはどんなことをやったかというと、もちろんMBSRをやるんですけれども、あとはもう一つ「HEP」(健康増進プログラム)、これはすげ替えているというか、差し替えて、マインドフルネスの影響だけを純粋に調べたいがゆえに、同じような、似たような、マインドフルネスを除いたプログラムを用意して比べているんですよね。

 

わかったことはどういうことなのかっていう話ですけれども、心理的ストレスが高ければ高いほど、水疱のサイズであったりとか、水疱の中の炎症の指標となる成分の量が増えていくというのが普通だそうなんですけれども、MBSRを行った場合は、HEPに比べて心理的ストレスが高くても、水疱での炎症は上がりにくくなったということだそうなんですよ。

 

つまりどういうことかというと、心理的ストレスが及ぼす炎症の影響を弱めてくれる働きがMBSRにあったということがわかったということなんですね、HEPと比べることによって。

 

面白いことに、心理的ストレスの低下の程度は、HEPを受けた人とMBSRを受けた人の間で違いはなかったそうなんですよ。

さらに、MBSRにはそういった炎症への影響を弱める、という作用があったということで、心理的ストレスを弱めるだけでなく、ストレスとの付き合い方も上手くなるんじゃないかっていうのを示唆しているかなと思います。

 

もう一つ面白いこととしては、この水疱への影響、炎症が、心理的ストレスを受けても上がりにくくなったという話をしましたけれども、その度合いっていうのはマインドフルネスの練習時間が長ければ長いほど強かったそうなんですね。

 

というわけで、時間の長さにも言及しているっていう意味で、この論文は面白いなと思いました。

それでは続きまして、6番の我らがカバットジン(笑)の論文なんですけれども、これは非常に古い論文、というか有名な論文で、乾癬っていう皮膚の疾患があるんですけれども、紫外線を当てるという治療をするんですよね。

 

紫外線を当てる装置の中に横になっていただいて、蓋をさせてもらって、紫外線を当てるという治療をするんですけれども、この論文で行ったことは、紫外線を当てながら瞑想をするというグループと、紫外線を当てる紫外線療法だけをしてもらうという群を比べてみたという論文なんですね。

 

そうすると、実はその瞑想も同時に行っていただいた方々の方が、4倍早く改善したという結果が得られたそうなんです。

というわけで、瞑想というものと身体的症状との関連を示した、最初期の論文になります。

7番目の論文なんですけども、デービッドソンらの論文は、健常者を対象にして、前頭葉っていう脳の前側のところにある、感情表現に関わる部位を調べた研究になります。

 

これを調べると何が良いのかっていうと、このデービッドソンらは、この部分を調べて、左右の活性化のバランスっていうのを脳波を使って調べているんですよね。

 

この研究の以前にもこういう研究をやっていて、左右の活性化のバランスは、右側が有意に活性化している人はネガティブな感情をどちらかというと抱きやすくて、左側が優位に活性化している人は、ポジティブな感情を抱きやすい、ということを見出していたそうなんですよ。

 

今回はそれとMBSRを関連づける研究で、右側優位だった人がMBSRをすることによって左側優位に移っていく傾向が見られたということなんですよね。

 

さらにもう一つの情報として、MBSRが終わった後、4カ月後にも測定したんですけど、その傾向がなんと4カ月後も持続していたということで、MBSRの長期的な効果の持続にも言及している論文になります。

さらに、同じ論文なんですけど、面白いのは、なんと免疫に関することまで調べていて、盛りだくさんなんですけども、MBSRを終了したときに、インフルエンザワクチンを摂取していただいているんですね。

 

そうすると、MBSRを受けなかった方々と比べて、抗体の産生量が上がったそうなんですよ。面白いですよね!免疫とMBSRを関連付けているということですね。

 

さらに右側から左側優位に変化する度合いが、より左が優位になった人の方が抗体産生量が上がっていたということで、そことも関連を示しているんですね。

ジョン・カバットジン曰く、MBSRによる免疫系の変化を示した最初の論文だそうです。面白いですね!

こういう抽象的なマインドフルネスというものが、はっきりとした数値だったり、形として示されるっていうのは面白いなと思います。

それではいよいよ最後の論文、8番目、クレスウェルらの論文なんですけれども、これは主なテーマとして、中高年の方の孤独感と炎症について調べてるんですね。

どういう研究かというと、55歳から85歳の対象者にMBSRを受講していただいて、孤独感の減少と、炎症に関連する指標の低下っていうのを見出したということなんですね。

具体的には炎症に関しては、免疫細胞、血液の中から免疫を担当する細胞を取ってきて、その中の炎症に関連している遺伝子の発現が下がっていたのを見出したと。

そしてもうひとつは CRPという炎症に関連する蛋白で、血中にあるものなんですけれども、それの量を測って下がっていることを確認したということなんですね。

というわけで、孤独感に関する介入っていうのは、うまくいくものは少ないそうなんですけれども、MBSRは孤独感の減少に成功したと。

さらに炎症の低下にも貢献しているということを示した論文になります。

というわけで、今日は以上になります。

【紹介されている論文】

丸囲み数字:植田がつけた通し番号

カッコ内の文字:本書で割り振られている記号

(‡) Killingsworth MA, Gilbert DT. A wandering mind is an unhappy mind. Science. 2010;330:932.

以前の解説動画:

https://youtu.be/WdtTYXBPNHY

(‖) Hölzel BK, Carmody J, Vangel M, Congleton C, Yerramsetti SM, Gard T, Lazar SW. Mindfulness practice leads to increases in regional brain gray matter density. Psychiatry Research: Neuroimaging. 2010. doi:10.1016/j.psychresns.2010.0.006.

③(a) Hölzel BK, Carmody J, Evans KC, Hoge EA, Dusek JA, Morgan L, Pitman R, Lazar SW. Stress reduction correlates with structural changes in the amygdala. Social Cognitive and Affective Neurosciences Advances. 2010; 5(1):11–17.

④(b) Farb NAS, Segal ZV, Mayberg H, Bean J, McKeon D, Fatima Z, Anderson AK. Attending to the present: mindfulness meditation reveals distinct neural modes of self-reference. Social Cognitive and Affective Neuroscience. 2007; 2:313–322.

⑤(c) Rosenkranz MA, Davidson RJ, MacCoon DG, Sheridan JF, Kalin NH, Lutz A. A comparison of mindfulness-based stress reduction and an active control in modulation of neurogenic inflammation. Brain, Behavior, and Immunity. 2013;27:174–184.

⑥(d) Kabat-Zinn J, Wheeler E, Light T, Skillings A, Scharf M, Cropley TC, Hosmer D, Bernhard J. Influence of a mindfulness-based stress reduction intervention on rates of skin clearing in patients with moderate to severe psoriasis undergoing phototherapy (UVB) and photochemotherapy (PUVA). Psychosomatic Medicine. 1998;60: 625–632.

⑦(e) Davidson RJ, Kabat-Zinn J, Schumacher J, Rosenkranz MA, Muller D, Santorelli SF, Urbanowski R, Harrington A, Bonus K, Sheridan JF. Alterations in brain and immune function produced by mindfulness meditation, Psychosomatic Medicine. 2003;65:564–570.

⑧(f) Creswell JD, Irwin MR, Burklund LJ, Lieberman MD, Arevalo JMG, Ma J, Breen EC, Cole SW. Mindfulness-Based Stress Reduction training reduces loneliness and pro-inflammatory gene expression in older adults: A small randomized controlled trial. Brain, Behavior, and Immunity. 2012;26:1095–1101.

(Full Catastrophe Living 第2版より引用)

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